デフォルトで生きているのか、死んでいるのか? (Paul Graham)

起業して8~9カ月以上経ったスタートアップと話をする時、私がまず知りたいことは大抵同じだ。経費が一定で収益成長率が過去数カ月と同レベルだとして、手元の資金で利益を上げているか。よりドラマチックな表現をすれば、デフォルトの状態で生きているか、死んでいるかということである。

驚くべきことに、創業者自身がそれをわかっていないことが多い。私が話をする創業者の半数は、自分たちがデフォルトで生きている状態なのかデフォルト死んでいる状態なのかを理解していない。

自分もその1人だという人は、Trevor Blackwell が作成した便利な計算ツールを使って調べてみてほしい。

スタートアップがデフォルトで生きているのかデフォルトで死んでいるのかをまず知りたい理由は、その答えによって以後の会話が変わってくるからだ。自社がデフォルトで生きている状態である場合、今後の野心的な新ビジネスについて語り合える。しかしデフォルトで死んでいる場合は、おそらくそこからの脱出方法について話す必要があるだろう。現在の軌道のままでは失敗に終わることはわかっている。では、彼らはいかにしてその軌道から逃れることができるだろうか。

自社がデフォルトで生きているのかデフォルトで死んでいるのかを理解している創業者がほとんどいないのはなぜだろう。主な原因は、彼らがそれを問うことに慣れていないからだと思う。3才児に人生計画を尋ねるのが無意味なように、この問いかけは起業後の早い段階でするようなものではない。しかし、会社が成長するにつれ、これは無意味な質問から非常に重要な質問に変わる。往々にして、そうした類の変化は不意にやってくるものだ。

私が考える解決策はこうだ。自社がデフォルトで生きているのかデフォルトで死んでいるのか、手遅れになるよりは、早すぎてもそれを問い始めることである。この質問の重要性が変わる時期を正確に言い当てることは難しい。しかし、すでに手遅れになってから自社がデフォルトで死んでいると悩み始めるのは危険極まりないが、早すぎる段階で心配し始めることにさほどの危険はないだろう。

その理由は、私が以前に執筆した「瀕死の危機」(日本語訳)という現象にある。瀕死の危機とは、デフォルトで死んでいるのに、低成長およびそれを解決する十分な時間の欠如が重なったものだ。これは、自らがどこに向かっているのか理解していない創業者の行きつく先である。

創業者がデフォルトで生きているのかデフォルトで死んでいるのかを自問しない理由はもう1つある。容易にさらなる資金を調達できると考えているからだ。しかし、そうした思い込みは間違っていることが多く、なお悪いことに、その思い込みに依存するほど間違いがより大きくなってしまう。

これを解決するには、希望と現実を分けて考えると良いだろう。漠然とした楽観主義で将来を考えるのではなく、要素を明確に分けるのだ。「当社はデフォルトで死んでいるが、助けてくれる投資家がいるから大丈夫だ」。創業者がこう言うと、その頭の中では私の頭の中と同じ警報が発せられるだろう。十分に早い段階でその警報を鳴らせば、瀕死の危機を回避できるかもしれない。

自分を助けてくれる投資家に頼れるなら、デフォルトで死んでいることはまだましかもしれない。一般に、投資家の興味は成長の結果にある。例えば、年間500%などというように会社の収益が急成長している場合、会社が利益を出していなくても興味を持ってくれる投資家をあてにしても良いだろう。[1]しかし、投資家は気まぐれであり、頼りすぎることは禁物だ。驚くべき成長を見せていても、ビジネスの何かに投資家が動揺することもあるだろう。つまり、会社がどれだけ順調に成長していても、プランAで確実に資金が調達できるとは限らない。常にプランBも用意しておくべきだ。さらなる資金調達が叶わない時に生き残るためには何をすべきか、プランAが失敗した場合にいつプランBへ移行するのか、(書き留めるなどして)正確に把握しておくべきだ。

いずれにせよ、急成長と堅実経営は多くの創業者が想定するような明確に相反する関係にはない。実際、スタートアップの支出規模と成長速度の関連性は驚くほど低い。スタートアップが急成長している場合、大抵それは大きなニーズにピタリとはまったという意味で製品が的を射ているためである。スタートアップの支出が多い場合、一般的には製品の開発や販売に経費がかかっているか、単に彼らが浪費家であるかのどちらかである。

注意して聞いていれば、この時点で、瀕死の危機の回避法だけではなくデフォルトで死んでいる状態の回避法も知りたくなるだろう。答えは簡単。早くから人を雇わないことだ。早い段階で従業員を雇うことは、資金調達をするスタートアップにとって最高最大の愚策である。[2]

創業者は、成長するために従業員を雇うのだと考える。しかし、大半の者は従業員を雇う必要性を過小評価ではなく過大に評価して過ちを犯す。その理由の1つは、するべきことが山積しているからである。考えの甘い創業者は、十分な人数の従業員を雇えば問題はすべて解決すると考える。また、成功しているスタートアップは多くの従業員を擁しているため、それが成功のために必要であるかにみえることも理由の1つだ。実際、成功しているスタートアップが大所帯なのは原因というより成功の結果であろう。また、自社の成長が思わしくない場合、大抵製品の魅力不足が真の理由だが、創業者がそれに向き合おうとしないことも挙げられる。

さらに創業者は、資金を調達するとその提供者であるベンチャーキャピタル(VC)からもっと多くの従業員を雇うようけしかけられることが多い。ポートフォリオ効果を享受するVCにとって、いちかばちかの戦略は最適である。ある意味、VCはスタートアップに無茶をさせたいのだ。しかし、創業者としてのインセンティブは違う。何よりも生き残ることが最優先なのである。[3]

失敗に終わるスタートアップに共通した道のりはこうだ。彼らの製品はほどほどに魅力的で、当初妥当な成長を遂げている。最初の資金調達はいとも簡単にやってのける。創業者は優秀に見え、アイディアはもっともらしくみえるからだ。しかし、製品の魅力はほどほどでしかなく、成長はするが大きく伸びることはない。創業者は、沢山の従業員を雇うことが成長を加速させる方法なのだと自分に言い聞かせる。投資家もこれに同意する。しかし、(製品の魅力がほどほどでしかないため)急成長が実現することはない。この時、彼らは成長軌道から急速に外れていく。彼らはさらなる投資を受けることで事態が打開されることを望む。しかし、支出が多く成長が遅いスタートアップは、投資家にとって魅力的な存在でなくなっている。そして、彼らは資金調達ができず、会社は終わりを迎える。

会社は根本的な問題、つまり製品の魅力がほどほどでしかないという問題に取り組むべきだったのである。従業員を雇うことが問題解決となることはめったにない。大抵の場合、問題解決はさらに困難になる。こうした初期段階では、製品を「拡張させる」よりも進化させていく必要があり、一般的にこれはより少ない人間で容易にできることである。[4]

デフォルトで生きているかデフォルトで死んでいるかを問うことは、こうした事態からスタートアップを救ってくれるかもしれない。この質問から発せられる警報のおかげで、大量雇用を迫る力に対抗できるかもしれない。そのかわり、他の方法で成長することを追求せざるを得なくなるだろう。例えば、スケールしないこと日本語訳)をしたり、創業者だけができる方法で製品を再設計したりすることである。そして、大半と言わないまでも多くのスタートアップにとって、このような成長軌道は実際に機能するものとなるだろう。

Y Combinatorの終了時に資金調達を行ったAirbnbが、最初の従業員を雇ったのは4カ月後だった。その間、創業者たちは働き詰めだった。しかし、その甲斐あって、彼らはAirbnbを現在のような目覚ましく成功した企業に成長させることができたのである。


原註

[1] ユーザ数の急成長も投資家の関心を集めるだろう。最終的に、収益はユーザ数の定数倍となるため、x%のユーザ数成長でx%の収益成長が予想される。しかし実際には、投資家は予想収益を単純に割り引くため、ユーザ数を測定している場合、投資家の注目を集めるにはより高い成長率が必要となる。

[2] 資金調達をしないスタートアップは早急に雇用をせずに済む。その余裕がないからである。しかしこれは、酒を一切断つことがアルコール依存症になるのを避ける唯一の方法でないように、早急な雇用を回避するために資金調達を回避すべきという意味ではない。

[3] VCがもっと従業員を雇うよう創業者にけしかける傾向が、VC自身の利益にすらならないとしても驚くことではない。VCは、支出過多で倒産したが生き延びていれば成功していたかもしれない会社がどれほどあるかを理解していないのだ。私はそうした会社は相当な数に上るとみている。

[4] 原稿の草稿に目を通した後、Sam Altman は次のように述べている:

「従業員を雇うタイミングをもっとよく考えるべきだと思う。YCで最も成功した会社が最も早く人を雇った会社ではないとするのは概ね正しく、優れた創業者にみられる特徴の1つはこの衝動に耐えられることだと思う」

これを受け、Paul Buchheit は次のように述べている:

「大いに関連すると思われる問題が早期の規模拡大である。目覚ましい成長実績を欲する創業者は、あまり上手くいっていない零細事業(健全でない部門収支であるのが一般的)に手を出し、それをスケールしていく。これは規模拡大後のビジネスの立て直しをより困難にする雇用過多の問題と似ており、こうした事業では物凄い勢いでキャッシュが流出していく」

この原稿の草稿に目を通してくれた、Sam Altman、Paul Buchheit、Joe Gebbia、Jessica Livingston、Geoff Ralstonの各氏に感謝します。

 

著者紹介 (元記述)

Paul Graham

Paul は Y Combinator の共同創業者です。彼は On Lisp (1993)、ANSI Common Lisp (1995)、ハッカーと画家 (2004) の著者でもあります。1995 年に彼は Robert Morris と最初の SaaS 企業である Viaweb を始め、1998 年に Yahoo Store になりました。2002 年に彼はシンプルなスパムフィルタのアルゴリズムを見つけ、現在の世代のフィルタに影響を与えました。彼は Cornell から AB を、Harvard からコンピュータサイエンスの PhD を授けられています。

記事情報

この記事は原著者の翻訳に関する指示に従い翻訳したものです。
原文: Default Alive or Default Dead? (October 2015)

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