持続可能なプロダクトの成長 (Sequoia Capital)

目次

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長期的な成功を収めるためには、製品は真の価値を生み出さなければなりません。人を惹きつける力が強く、広く普及している場合には、ユーザーは自らの意思で頻繁に戻ってきます。最も成功した健全な製品は、長期間にわたって持続可能な成長をすることができます。なぜなら、根本的な問題を解決してくれるものだからです。

持続可能な成長とは、将来の資源を枯渇させることなく維持することのできる成長です。現在の急速な成長と将来の成長の間には、トレードオフの関係があります。現在の急速な成長は、獲得可能な市場を使い果たし、より長期にわたって製品を維持することを不可能にするかもしれません。例えば、あなたの製品があまりに速く成長し、多数の新しいユーザーが製品からチャーンしているとしたら、そういったユーザーはあなたの製品をもう2度と試さないかもしれません。そして彼らをアクティブユーザーにするチャンスを、あなたは永遠に失ってしまうのです。一方で、製品の成長はゆっくりでも、ユーザーの大部分が継続したとしたら、より持続可能に成長する可能性が高いのです。

多くの場合、持続可能ではない成長は、Product-Market Fitが欠けているために起こります。独自の価値をほとんど、もしくはまったくもたらさず、有機的ではない手段でのみ成長する製品は、長期的に生き残る可能性は低いです。さらに、製品が持続可能に成長し始めても、競争相手や市場に飽和により、その勢いが後々衰えることもあります。

持続可能な成長と、その成長を生み出す方法を理解することは、製品の成功にとって最も大切です。この記事では、あなたの製品が持続可能に成長しているかを見極めるために利用できるフレームワーク、そして、持続可能に成長していない場合の対処法について、お伝えします。

フレームワーク:主要なファクター

根本的には、持続可能な成長は2つの主要なファクターによって決まります。 Product/Market Fit と正の純成長です。 Product/Market Fit を最もよく表すのは、継続です。素晴らしい製品は、堅実なペースで新しいユーザーを獲得するだけではなく、それらのユーザーに製品の価値を認めさせ、リピートさせるのです。

純成長を最もよく示す指標は、新しいユーザーと復活したユーザーの合計に対する、チャーンしてしまったユーザーの比率を示す「Qcuik Ratio」です。成功した製品は、高い継続率(同様のジャンルにおいて成功している他の製品に比べた場合)と、プラスの純成長を示す1以上の Quick Ratio の両方を兼ね備えている必要があります。

これら2つの主要要素に基づき、あなたの製品の現状での成長は次の4つのシナリオのどれか1つに当てはまるでしょう。

水漏れするバケツ

製品はプラスの純成長をしていますが、 Product/Market Fit を欠いています。

デス・スパイラル

製品はプラスの純成長も、 Product/Market Fit も、両方とも欠いています。継続率は低く、アクティブユーザーは減少し、製品成功の可能性はほとんどありません。

終末期

成長は停滞していますが、製品は一定のコアとなるユーザーを保持しています。ユーザーの一部に対して Product/Market Fit を見いだしつつも、全体としてアクティブユーザーを失っているアーリーステージの企業がこのシナリオを経験します。

持続可能な成長

アクティブユーザーは増大を続け、ユーザーの継続率も良い状態です。すべての製品の目指すところはこのシナリオです。

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これらの成長シナリオを検討しながら、製品が1つのシナリオから別のシナリオへと移行していったいくつかの事例を見ていきます。事例には、「水漏れするバケツ」からデス・スパイラルへと移行したものや、持続可能な成長でスタートしたのに、終末期に移行してしまったもの、そして持続可能な成長でスタートし、現在もその成長を保っているものが含まれます。

水漏れするバケツ

特徴的な指標

  • 高い Quick Ratio ( > 1)
  • 低い継続率

「水漏れするバケツ」の状態の製品は、正の純成長(全体的なアクティブユーザーの数は増えていることを意味します)をしながらも、これらアクティブユーザーのほとんどが継続していません。一般的にこの事態は、製品がユーザーの大部分に対して、独自の価値提案をほとんど、もしくはまったくできていないときに起こります。言い換えれば、 Product/Market Fit に欠けるのです。そのような製品は、主にバイラルや、有機的ではない手段、グロースハッキングを通してユーザーを獲得した可能性があります(グロースハッキングは、有機的および有料のチャネルを利用したコンテンツおよび製品マーケティングを通じて、可能な限り素早くユーザー基盤を拡大させることを目指すものです)。

事例:BranchOut

BranchOut は、2010年にローンチされたFacebookのアプリケーションで、ユーザーがFacebookのソーシャルネットワークを利用して、仕事上のネットワークを築くのを助けるために作られました。BranchOutは新しいユーザーを惹きつけるために、グロースハッキングの戦術を利用しました。BranchOutはユーザーに対して、すべての友人を招待するか、誰も招待しないか、という2つの選択肢しか与えませんでした。そうすることで、ユーザーがなるべくたくさんの友人を招待することを促したのです。Facebookの紹介システムを操作することで、BranchOutはすぐに、当時のFacebook全体の月間アクティブユーザー(MAU)の約半数に当たる、約4億人のFacebookのMAUを獲得したのです。しかし、これらのユーザーのほとんどは、BranchOut に本当に興味があったわけではありませんでした

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ハイパーグロース(超成長)期 のピークにおいて、BranchOutは1,200万人を超える独自のMAUを抱え、1ヶ月にわたって、平均1日25万ダウンロード以上を記録しました。しかし、招待がFacebookのユーザー基盤に浸透するようになると、BranchOutに参加していない人ではなく、すでに招待を受けて、チャーンしてしまった人々にたびたび招待が届くようになりました。こうして、トップラインの新しいユーザーの成長が停滞したのです。

さらに、BranchOutに登録した次の日に戻ってくるユーザーは、全体の1%にも達しませんでした。BranchOutは、明確で差別化された価値提案を持たず、 Product/Market Fit にも欠けていたため、継続率が非常に低かったのです。ユーザーはBranchOutにやってきて、有用性をほとんど見出せずに、去っていきました。BranchOutは訴えかけられる全体の市場のほとんどに浸透し、ユーザー離れを受けて、数ヶ月でMAUが1,400万人から300万人へと減少しました

BranchOutは低い継続率とプラスの純成長で「水漏れするバケツ」としてスタートしました。その後、新しいユーザー増大の停滞と、とてつもなく低い継続率との組み合わせによって、急速にデス・スパイラルのシナリオへと移行していったのです。(図4を参照)この動きは、BranchOutが3月に成長をした際に非常に高い値(〜3)を示したものの、3月に獲得したユーザーの大半が新しいユーザーと復活したユーザーによる成長を上回るペースで離れていったためにすぐに低下した Quick Ratio の変化に反映されています。(図3を参照)

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あなたの製品がこの状態にある場合、どうしたら良いでしょう?

あなたの製品が水漏れするバケツだった場合には、新しいユーザーの獲得を鈍化させ、継続率に集中することから始めましょう。 Product/Market Fit を達成し、あなたの製品を愛する核となる客層を保持し、彼らの深いエンゲージメントを確保することに意識を向けてください。探索的分析を用いて、最も深くエンゲージメントしたユーザーがなぜあなたの製品をリピートするのかを理解し、より多くのユーザーを彼らのようにするにはどうしたらいいかを特定しましょう。

デス・スパイラル

特徴的な指標

  • 低い Quick Ratio ( < 1)
  • 低い継続率

製品がデス・スパイラルに陥っているときは、マイナスの成長をし、 Product/Market Fit も欠いています。そのため、このシナリオにおける製品の Quick Ratio は1未満となります。チャーンしたユーザーが、復活したユーザーと新しいユーザーによる成長を上回ります。さらに、独自の価値をほとんど持たないため、継続率も低いままです。先に述べた通り、「デス・スパイラル」は BranchOut の栄光の日々の後にやってきた期間を的確に表しています。

あなたの製品がこの状態にある場合、どうしたら良いでしょう?

もしあなたの製品がデス・スパイラルに陥っている場合には、振り出しに戻って製品を再検討し、どうしたら Product/Market Fit を達成できるかを見極めましょう。顧客に聞き取りを行い、異なる市場へ移ることも検討しましょう。トップ・オブ・ファネル(最初の段階の見込み顧客)の成長を人工的に促そうとはしないでください。獲得可能な市場での顧客離れと、持続可能ではない「水漏れするバケツ」段階への移行につながるだけだからです。

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終末期

特徴的な指標

  • 低いか、もしくは平均的な Quick Ratio ( < 1)
  • 高い継続率

「終末期」シナリオにおける製品は、深いエンゲージメントを得た一定の核となるユーザーを確保しつつも、成長するのに困難を抱えています。その理由はおそらく、目標市場における高いペネトレーション、または精彩を欠いたグロース・ハッキングの試みです。通常このシナリオには2つのタイプの製品が当てはまります。

初期段階

初期段階の製品が高い継続率を誇りながらも、アクティブユーザーを失い、浸透率も低い場合には、成長戦略によって持続可能な段階に持っていけるかもしれません。

終末期

このタイプの製品はおそらく、初期段階では別のシナリオにあって、そこから「終末期」に移行した可能性が高いです。そのような製品がユーザーを失い続け、成長できないまま、少数のしっかりと継続したコアユーザーがそれでも生かし続けてくれる状態だと、製品の終焉は避けられません。

あなたの製品がこの状態にある場合、どうしたら良いでしょう?

まずは、成長が停滞している理由を把握しましょう。ターゲット市場へは浸透したかもしれませんが、あなたの製品を愛してくれるすべてのユーザーを特定できていないだけかもしれません。浸透率が高い場合には、新しい市場にピボットするために既存のユーザー基盤を利用することで「第二展開」を仕掛けるチャンスを探してみましょう(ゲーム業界ではよくあることです)。

しかし、ターゲット市場にまだ浸透していないと感じる場合には、持続可能な成長はすぐ手の届くところにあるかもしれません。マーケティングとグロースキャンペーンに投資することを検討する必要があります。そのような場合には、あなたの製品を愛するコアユーザーを継続させる力を利用して、成長を促進することができるかもしれません。

持続可能な成長

特徴的な指標

  • 高い Quick Ratio ( > 1)
  • 高い継続率

成功した製品、つまりユーザーが愛し、深くエンゲージし、継続している製品があれば、長期間にわたって持続可能な成長を維持できます。このシナリオには通常、2つのタイプの製品が当てはまります。

単一展開

単一展開の企業は、 Product/Market Fit を見出しており、獲得可能な市場に広く浸透し、自然と減速するまでは、持続可能な成長を続けます。最終的には、離れていくユーザーと復活するユーザーがぴったり均衡し、純成長はゼロになります。多くの場合、そのような企業が競争相手へ適応できなかったり、エコシステムが変化することにより、「終末期」のシナリオへと押されていきます。(下記で述べる通り、Timehop はこの例に当たります。)

複数展開

複数展開の企業は、継続的に進化し、並行する製品を構築したり、新しい地域やバーティカル市場に拡大していきます(図5参照)。そのような企業においては、それぞれの製品の持続的成長に重点が置かれおり、それが企業全体の持続可能な成長を可能にします。複数展開がないと、停滞やマイナス成長により、企業は最終的に「終末期」シナリオに移行していきます。(複数展開について詳しくは、下記のNetflixのケーススタディを参照)

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事例:Timehop

2011年にローンチされたTimehopアプリは、Facebookの「過去のこの日」機能に似ています。ユーザーに対してそれぞれの日に、過去の同じ日にシェアをしたソーシャルメディアの写真や投稿を表示してくれるのです。2015年5月ごろのピーク時には、TimehopはAndroidで300万人を超えるMAUを誇り、その大半がアプリを毎日使っていました(DAU/MAUの割合は70%)。そして、MAUの半数が1ヶ月後もアプリを使い続けていました(30日後継続率50%)。どうみても、これらの継続性を示す指標は、Timehopが Product/Market Fit を有していたことを示唆しているように見えました。しかし、図6が示す通り、TimehopのMAUは後に低下していきました。

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同アプリは高い継続率と著しい成長に恵まれましたが、完全に通知主導で、エンゲージメントの度合いが低かったのです。ユーザーは通知を受け取った後、平均で1分間をTimehop上で過ごし、その日のうちにもう1度アプリを開けるユーザーはほとんどいませんでした。ユーザーは「自発的」に戻ってくるわけではなく、1日に平均1度の利用にとどまっていました。

さらに、2015年のFacebookによる「過去のこの日」のローンチを受けて、Timehopの提供する価値は独自のものではなくなり、ダウンロードは劇的に減少しました(図7を参照)。新しいユーザーによるダウンロードはなくなり、過去にアクティブだったユーザーも新しいスマートフォンを買った時に再インストールすることはありませんでした。こうしてアプリの利用は徐々に減少していきました。Timehopは、既存の顧客ベースを利用して、「第二展開」をローンチすることを怠ったのです。反対に、単に人気を失い、「終末期」シナリオへと移行していきました。

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ケーススタディ:Netflix

Netflixは、非常に継続力が高く、複数の展開を成功させた典型的な例です。複数展開により、同社は新しい市場へ進出し、著しい成功と持続的な成長が可能になりました。

Netflixの最初の展開は、1997年のアメリカでのローンチです。単独の製品により、 Product/Market Fit と成長を達成し、10年以上にわたって維持したのです。同社の第二の展開は、新地域への進出でした。2012年には、アメリカの新しいユーザーは、Netflix全体の新しいユーザーの8%を占めていました。2018年までに、アメリカの新しいユーザーは、全体のたった1%になっていました。国際市場への進出によって、アメリカでの成長が減速しながらも、同社は全体的には堅実に成長を続けることができたのです(図8参照)。

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図5に示された互いに重なるS字カーブを思い出してみてください。それぞれのカーブは、個々に持続可能な成長を記録している新しい製品を示しています。同じコンセプトがNetflixの新しい地域への拡大にも当てはまります。それぞれの市場が飽和してしまっても、重なり合うカーブが成長の継続を可能にします。例えば、アメリカ(図9)とスペイン(図9)での新しいユーザーの全体のユーザーに占める割合が減少したのにも関わらず、Netflixはその他の新しい国へ進出し、全体としては成長を続けていきました。

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あなたの製品がこの状態にある場合、どうしたら良いでしょう?

あなたの製品の継続率が高く、強力に成長している場合、その製品の成長段階の間に「第二の展開」を開始し、既存のユーザー基盤を利用して将来の成長に拍車をかけることで、その状態を継続させるようにしてください。第二の展開をローンチしなければ、あなたの製品は最終的には失敗に終わるでしょう。

その他の応用

このフレームワークの企業と製品レベルでの利用について主に述べてきましたが、副次製品、イベント、機能や機能にも応用することができます。

例えば、Facebook、Reddit、Nextdoorのようなケースでは、何億ものユーザーは、何百万の「グループ」の一部となっており、異なるグループが、持続可能な成長を含む4つのすべてのシナリオに広がりつつ、製品自体の継続率は低く、高い成長(=水漏れするバケツ)となっていることがあります(同じことは、Instagramの「Explore」や、Facebookの「marketplace」、LinkedInの「News Feed」のような、製品の中の特定の「タブ」にも当てはまります)。製品チームは、何が上手くいっているのかを特定、理解し、全体としての製品をそれらの成功したグループやタブのようにすることを目指す必要があります。

逆もまた然りの可能性があります。製品は全体としては持続的に成長していても、個々の機能はそうでないことがあり得るのです。成長を製品レベルだけではなく、機能やイベントレベルでも理解することで、全体の成功がよりはっきりと理解できるようになるでしょう。

絶対数についてのメモ

この記事においては、「高い継続率」といった特徴を定義するのに絶対数を利用しませんでした。それは、そういった指標の望ましい値が、製品や分野によって大きく左右されるからです。例えば、ソーシャルメディア企業は、人々がそのような製品を通常毎日使うために、1日ごとの高い継続率を期待します。しかし旅行アプリの場合には、1日ごと、もしくは月ごとの継続率はずっと低いかもしれません。ほとんどの人はあまり頻繁に航空券を購入しないからです。あなたの製品の成功を理解するには、同じ分野の同様の製品と比較して、評価をする必要があります。

重要なポイント

  • 製品の現状での成長は、次の4つのシナリオのどれかに当てはまります:「水漏れするバケツ」、「デス・スパイラル」、「終末期」、「持続可能な成長」
  • 継続性(Product/Market Fit)と純成長は、製品の持続可能な成長を導く主要な2つの要素です。
  • 継続率の低い高成長も、成長なき高継続率も、長期的には持続可能ではありません。
  • 高成長で、高継続率の製品の場合には、積極的に複数展開を進め、継続的な成長を確保しましょう。
  • 企業内でも、個々の製品機能や特性が製品全体とは異なった成長をたどる可能性があり、成功を全体的に理解するのに影響を与えることがあります。

 

この記事はSequoia CapitalのData Scienceチームによるものです。Jamie Cuffe、Avanika Narayan、Chandra Narayanan、Hem Wadhar、Jenny Wangがこの記事に執筆協力しています。質問、コメント、その他フィードバックに関しては、data-science@sequoiacap.comまでメールでお願いします。

 

著者紹介 

Sequoia Capital (Medium)

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記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Sustainable Product Growth (2018)

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