いい人でいることがなぜ創業者にとって安全なのか (Paul Graham)

ある創業者から最近もらったメールのおかげで、大切なことがわかった。なぜスタートアップの創業者はいい人であると安全なのか、ということだ。

私は子供の頃に見たマンガの影響で、とても成功しているビジネスマン(マンガの中では、常に男だった)は、強欲で、葉巻を吸っていて、拳でテーブルを叩く50台の人物で、権力を行使することによって勝利し、やり方にはあまりこだわらないというイメージを持っていた。以前にも書いたけれど、私がスタートアップに関して最も驚いたことのひとつに、成功しているスタートアップの創業者の中にそういう人がほとんどいないということが挙げられる。ほかの業界では、そういう人物が成功しているのかもしれない。それは私にはわからない。しかし、スタートアップの創業者は違う。[1]

私はこのことを経験的に知っていたが、先日ある創業者からメールをもらうまでは、その理由を論理的に考えたことはなかった。この創業者はメールの中で、自分は根本的に気が優しく、無料であげすぎてしまうので心配している、と書いていた。そして自分には「ちょっとソシオパス的なところ」が必要かもしれないと考えていたようだった。

クチコミで広まるくらい良い製品を作れば、指数関数的な成長曲線になるから心配ないと、私は彼に言った。人からお金を取ることが苦手でも、最悪でも、苦手でなかった場合の1を下回る定数倍の成長曲線になる。ただし、どんな曲線の定数倍も、まったく同じ形になる。Y軸の数字は小さくなるが、曲線は同じ傾斜を描き、成功しているスタートアップの速度で成長すれば、Y軸は自然に伸びていく。

わかりやすくするために、例を挙げてみよう。あなたの会社は、現在1カ月1000ドルを売り上げているとする。あなたは素晴らしい製品を作ったので、週に5%成長している。今から2年後、1カ月の売上げはおよそ16万ドルになっているだろう。

さて、あなたはあまりにも強欲でないため、ユーザーから取れる金額の半分しかもらっていないとしよう。その場合、2年後のあなたの売上げは、1カ月16万ドルではなく、8万ドルだ。あなたはどれくらい後れを取っているだろうか。取れるだけの金額を全額もらった場合の売上げに追いつくには、どれくらいかかるだろう。それはたった15週間でしかない。2年後においても、強欲でない創業者は、強欲な創業者から3.5カ月後れを取っているにすぎない。[2]

数字を伸ばしたければ、選ぶべきは成長率だ。たとえばあなたはやはり、ユーザーから取れる金額の半分しかもらっていないとしよう。ただし、1週間の成長率は5%ではなく、6%だとする。さて、2年後、あなたは強欲な創業者と較べて、どうなっているだろうか。あなたはすでに先を行っていることになる。強欲な創業者の1カ月の売上げ16万ドルに対して、あなたは21万4000ドル売り上げており、どんどん引き離していく。もう1年経てば、強欲な創業者の2百万ドルに対して、あなたの1カ月の売上げは440万ドルに達している。

強欲さが役に立つのは明らかに、強欲でなければ成長できない場合だ。スタートアップが異なるのは、通常はそうではないところにある。スタートアップは通常、あまりにも素晴らしいものを作ったので、人々がそれを友人に薦めてくれることによって成功する。そして強欲であることは、役に立つどころか、恐らくは不利になる。[3]

スタートアップの創業者がいい人でいられる理由は、素晴らしいものを作ることは複合的であり、強欲さはそうではないためだ。

だから、もしあなたが創業者なら、あなた自身を幸せにすると同時にあなたの会社を成功させるために、次のようにするといい。成長率で埋め合わせができるくらい一生懸命働くのであれば、好きなだけいい人になってもかまわないと、自分に言い聞かせることだ。成功しているスタートアップの大半は、無意識のうちにこのトレードオフを行っている。意識的に行えば、もっといい結果が得られるかもしれない。

 

[1] 成功しているスタートアップの創業者は金銭欲に駆り立てられていると、多くの人が考えている。ところが実際には、大半の成功している創業者の秘密兵器は、金銭欲に駆り立てられていないことである。もしお金がほしいだけなら、急成長するスタートアップがその成長過程で必ず提示される買収のオファーを受け入れるだろう。大半の成功している創業者は、ものを作るほとんどの人を駆り立てているものと同じものに駆り立てられている。会社は彼らのプロジェクトなのだ。

[2] 実際には2 ≈ 1.05 ^ 15なので、強欲でない創業者は、強欲な創業者から常に15週間後れを取っている。

[3] 顧客からお金を搾り取る能力が役に立つ理由は、もうひとつあるかもしれない。それは、スタートアップはたいてい最初は赤字なので、顧客一人あたりの利益を大きくすれば、最初の資金が枯渇する前に採算が取れるようになるから、というものだ。たしかに、最初の資金が尽きて、それ以上の資金を調達することができずにスタートアップが失敗に終わることは珍しくない。しかし、根本原因はたいていの場合、既存顧客からお金を十分に取ることができていないためではなく、成長の遅さや過度の支出によるものだ。

 

著者紹介 (元記述)

Paul Graham

Paul は Y Combinator の共同創業者です。彼は On Lisp (1993)、ANSI Common Lisp (1995)、ハッカーと画家 (2004) の著者でもあります。1995 年に彼は Robert Morris と最初の SaaS 企業である Viaweb を始め、1998 年に Yahoo Store になりました。2002 年に彼はシンプルなスパムフィルタのアルゴリズムを見つけ、現在の世代のフィルタに影響を与えました。彼は Cornell から AB を、Harvard からコンピュータサイエンスの PhD を授けられています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  Why It's Safe for Founders to be Nice (2015)

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